個性は自分一人で作り上げるものではない 立川談春『赤めだか』で綴られた師弟の凄み【緒形圭子】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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個性は自分一人で作り上げるものではない 立川談春『赤めだか』で綴られた師弟の凄み【緒形圭子】

「視点が変わる読書」第10回 『赤めだか』立川談春著

 

◾️どうしても真似しきれないもの

 

 芸歴40周年とはつまり、談志に弟子入りしてから40年ということだ。師匠の談志は13年前に亡くなり、今や談春は当代随一の落語家となった。私は後半の20年しか知らないけれど、40年でよくぞここまで来られたなぁと感慨深く、最後の三本締めにも力が入った。

 前回、17歳でアメリカ海軍に入隊し、水中破壊工作部隊となって第二次世界大戦のノルマンディー上陸作戦や硫黄島の戦いを生き抜いたフロッグマンのノンフィクションを取り上げたが、17歳で立川談志に入門し、40年で日本の落語界をしょって立つ存在になるなんて、それに劣らないくらい奇跡的なことではないかと思う。

 それが出来たのは、談春が自分にしか出来ないことをつきつめたからだろう。

 師匠の談志は毀誉褒貶が激しいとはいえ紛うことなき天才である。自分は談志にはなれない。それでも談志を真似て真似て真似て、しかし、どうしても真似しきれないものが出てきた。

 それが談春の『包丁』であり、談春の落語だったのだ。

 

文:緒形圭子

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緒形圭子

おがた けいこ

文筆家

1964年千葉県生まれ。慶應大学卒。出版社勤務を経て、文筆業に。

『新潮』に小説「家の誇り」、「銀葉カエデの丘」を発表。

紺野美沙子の朗読座で「さがりばな」、「鶴の恩返し」の脚本を手掛ける。

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